2009
それでもOKという方は続きからどうぞ。
ルアが天高く輝く夜。
俺は腕の中のぬくもりがなくなる感触で目を覚ます。
最初は消えたぬくもりに焦ったけれど、今は少し慣れた自分がいる。
いつもの場所に目をやれば、ほらやっぱり。
ルアの光に照らされた、青白く浮かび上がるあいつの姿。
【好奇心は夢を落とすか(アクアマリン)】
「アキ」
できるだけ穏やかな声になるように。
そう思って出した声はまるで、空気に溶けるように細い声になったけれど、アキはしっかり振り返る。
「アクト」
アキの瞳が俺を捉えて、柔らかい声が俺の名前を紡ぎだすことに安堵する。
窓辺に置かれたソファに座るアキには、まるでスポットライトのようにルアの光が注ぐ。青白いその光は幻想的で、アキの輪郭をぼんやりと溶かす。
まるで、この世のものではないように。
「急にいなくなるなっていつも言ってるだろ」
「ん。ごめんね。よく寝てたから」
ルアの光を遮るように、正面からアキを抱きしめると、アキの困ったような声が耳をくすぐる。
柔らかな身体と暖かい体温は、アキの存在を確かに俺に伝えているのに、俺の中にある不安は溶けない。胸の奥にある氷のような冷たさがじわじわとせりあがって、口元を突いて出そうになるのを抑えるのが精一杯で、アキの身体にまわした腕にさらに力をこめる。
こちらに帰ってきてからアキはカヤナの記憶がすっぽりと抜けていた。生き返った代償なのだろうと、俺は考えている。カヤナのことをアキが忘れてしまっているのは寂しいことだと思ったけれど、アキには代えられない。
「アクト。ルアが綺麗だよ」
ポンポン、となだめるようにアキが俺の背を叩くけれど、俺はアキを抱きしめたまま離さない。
いつからかアキはこんなふうにルアの夜に、ひとりでルアを眺めるようになっていた。最初の時は消えたぬくもりに血の気が引いた。アキを失ってから俺はアキの夢を何度も見て、起きてはその喪失感に打ちのめされる日々を暮らしていたから、今までの日々も全て夢だったのではないかと恐れたのだ。
窓辺に座るアキを見つけたとき、ホッとしたのと同時にすごく不安になったのを今でも覚えている。
ルアに照らされたアキは、ソルの下とは違う表情でそこにいた。震える手でアキを抱きしめた俺に、ポツンとアキが独り言のように呟いた。
―私が失くしちゃった大事なもの、ルアを見てると思い出せる気がするの―
一瞬呆然とした後、俺の頭の中に恐ろしい想像が浮かんだ。
カヤナとの思い出が生き返る代償だったとしたら。
カヤナのことを思い出したら、アキはどうなる――?
怖い。
怖い、怖い、怖い!!
アキをもう一度失ったら、俺はもう耐えられない!!
ルアなんか、見るな!お前を失うくらいなら、何も思い出さなくていい!
噴き出した自己中心的な想いに愕然とする。
だけど、それは紛れもない本心で。
アキには言えない。
口にしたら、きっと、俺は俺を許せない。
だけど、アキ。
俺は怖いんだよ。
お前といる日々は夢のように輝いていて、だからこそいつか消えてしまいそうで怖いんだ。
だから俺は抱きしめる。
お前がどこにも行かないように。
どうか、この夢の日々が落ちてしまうことのないように――。
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アクトはこんなに女々しくないわ!と思った方ごめんなさい。
個人的に、一度大事なものを失った経験があると、臆病になってしまうと思うので。
それが大事なものであればあるほど、恐怖は増して自分でもどうしようもないことってあるのでは。
アクトは今まで大事なものをつくってこなかったから、余計にその傾向が強いんじゃないかなぁと思ってできた話。
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主人公至上主義でつっぱしります。
妄想癖はありますが、発想が貧困なのでリクエストいただければ嬉しいです。(リクエストや感想は拍手やコメントでお願いします)
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