2009
ED未プレイの方ご注意を。
OKの方は続きからどうぞ。
「おめぇ、いつまでその位置に甘んじてるつもりだよ」
「は?」
深夜の自室。
いきなり押しかけてきた、上司であるナカジマと酒を酌み交わして、ほどよく酔いが回ってきた頃。
見計らったように告げられた台詞に、オズウェルは眉根を寄せた。
【閃光を縫い付けて(オパール)】
「何の話ですか、親方」
「何のじゃねぇよ。あいつの話に決まってんだろ」
知らないふりをしようかとも思ったが、脳裏に浮かんだのは一人。ナカジマが告げたのも、その少女のことに違いないだろう。
いや、少女という表現は正しくないかもしれない。初めて会った頃こそその呼び名が相応しかった彼女は、ここ数年で立派な淑女に成長した。そして仕事面でも、いまやオズウェルと肩を並べる存在だ。少なくとも飛行機に関わる中で彼女の名を知らないものはいないだろう。
「あいつは大事な同僚ですよ」
「おめぇなぁ・・・。そんなんじゃ、いつか他のやつに掻っ攫われるぞ」
ナカジマが挑発のつもりで放ったであろう台詞を、オズウェルは軽くあしらうように笑った。
「あいつが他のやつになんか揺れるわけないでしょう。それに、親方がそんなこと言うと思いませんでしたよ。副指令とは戦友だったんでしょう」
「ばかやろう。だから言ってんだよ。鬼籍に入った奴をいつまでも想っててどうすんだ。あいつはんなこと望んでなかったぜ。それに俺だって、ろくでもねぇ奴に可愛い部下をやるつもりはねぇよ。オズウェル、お前だから言ってんだ」
カラリ、とグラスの氷が解けて音を立てる。
「お前、あいつに惚れてんだろう」
「…俺の気持ちなんか関係ないでしょう」
溜息混じりに返した言葉は、ナカジマの気に障ったらしい。
眉間にぐっと皺がよる。
「関係ないことあるかい!お前もいつまでたっても独り身で!上層部からの見合いの話も片っ端から蹴ってるって話じゃねぇか!そのくせエリカに野郎がちょっかいかけると不機嫌丸出しで、やりにくいったらねぇ。見ててイライラすんだよ!」
「それは・・・」
「反論できねぇだろうが!エリカだって、他の野郎よりはお前に気許してんだ。もうクラウスの奴が逝っちまって8年もたってんだぞ。もう充分だろ」
ナカジマの言葉が徐々に勢いを落とし、言い聞かせるような口調に変わる。
黙り込むオズウェルをどう思ったのか。ナカジマはグラスに残った酒を一気に煽ると、じゃあなと短い挨拶のみを残して部屋を出て行った。
もう8年、とナカジマは言った。
オズウェルもそう思うし、周りの人間もそう思っているだろう。8年という期間で、小隊にいたメンバーも様変わりし、軍隊の様式も変わった。戦での功労者であるクラウス・ウーデット少佐の身内でさえ、彼女の肩をそっと叩く。
―もう、いいよ。もう充分だと。
だけど、彼女だけは。
―まだ、たった8年です。一生にはまだまだです、と微笑む。
彼女は『ウーデット』の姓を名乗る時に誓ったのだ。
一生彼と共にあると。
自分の想いだけでは覆せないであろう、その誓い。
窓から見える星を見上げ想う。
空に散った英雄を。
クラウス・ウーデット少佐。
あなたは、ずるい。
あいつを縛りたくないというのなら、自分の想いを口にすべきではなかった。
あいつを置いていってしまうのだったら、線を越えるべきではなかった。
あいつを好きだったのなら、何をしても生き延びるべきだった―。
「…どうしろって言うんですか」
咽を下る酒が、胸に焼け付くような熱さを残す。
この想いを自覚した時には、あいつの気持ちは他の男に向いていた。それだけならばよかった。
あいつが幸せになれたのであれば、苦しくてもいつかは笑えたはずなのに。
なのに、あの人はあいつを置いていってしまった。俺の前には、いつもひとりで立ち竦むあいつだけが残された。
凛と立ってはいても細い背中に腕を伸ばしたくなったことが何度あっただろう。
あの人を忘れていいのだ、と周りから言われるたびに、途方にくれたような瞳でそれでも笑うあいつを、何度奪ってしまおうと思ったことか。
あいつはきっと、忘れたくないのだ。
あの人と過ごした短い時間を。その中の思い出を。
時間の流れの中、埋もれそうになるそれを、何度も何度も掬いだして抱きしめるように生きている。
そんなあいつに何が言えるというのだろう。
自分の想いがあいつを傷つけるだけだとわかっているから、口に出せない。
だけど、諦められずに傍にいたくて足掻いている。
目蓋を閉じるといつも浮かぶ光景がある。
少佐が乗った飛行機を見送るあいつの背中だ。
ずっと、ずっと空を見ていた。
その先にあるものが見えるかのように、ずっとずっと空を。
焼きついたように離れないその光景。
あいつにとって、あの人の思い出は光。
一瞬、だけどどんな光景よりも眩しい、閃光のような。
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クラウスを副指令、少佐と呼んでいるのはわざとです。生前の彼を知っているふたりには、いつまでも少佐で副指令のようなイメージがあったので。
途中話がぐだぐだになって困りました。うーん、精進せねば。
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主人公至上主義でつっぱしります。
妄想癖はありますが、発想が貧困なのでリクエストいただければ嬉しいです。(リクエストや感想は拍手やコメントでお願いします)
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