2009
本数が少ないのが申し訳なく、慌てて書いてみました。
ラブラブを書きたかったのに、どこを間違えたのかちょっと暗いテイストの上、長くなってしまっています。
それでもOKという方は、続きからどうぞ。
何だか慣れない。
そう言うと、彼はいつも少し困った顔をする。
そんなこと言われると、無理にでも連れ帰って慣れるまで傍に置いておきたくなるぞ、なんて脅迫じみたことを甘い温度で囁く。
それは駄目だよ、という私に彼は残念そうに口を尖らす。
けれど、どこかホッとした色が瞳に見えていることを、私は視線を逸らして知らないふり。
連れてってって言ったら、きっとあなたが困ることを私は知ってる。
【いつかの夜明けを待っている】
黄金の夜明けを得てちょうど一月経った後、彼は故郷へと帰っていった。
私を残して。
呪いを解いた後、一月もアカデミーに残ったのは私への優しさ。本当はすぐにでも帰ってシグルイのために働かなくてはいけないはずだったのに。そうするべきことを、彼はきっと誰より分かってた。
私も薄々、彼がアカデミーを去ってしまうであろうことは分かっていた。そして、迷っていた。ついて行くべきか、アカデミーに残るべきか。まだまだ私は未熟だ。竜の半身だったとはいえ、魔法使いとしての実力はアキトやユーリはもちろん、クラスの中でも中の下がいいとこじゃなかろうか。学ぶこと、学びたいことは山ほどあった。竜に願いたいことは思わぬ形で叶ってしまったけれど、それでもここで得たものは大きくて、これから得られるものもきっとたくさんあることはわかっていた。
けれど、初めての恋だったから。
初めて愛しいと思った人の傍を離れるのはとてもつらいと思ったから。私はとても迷っていた。
そんな私を彼は抱きしめて、3年待ってくれと囁いた。
まだまだシグルイは不安定だから。連れて行けば、きっと危険な目にあわせてしまう。
3年、アカデミーを卒業したら、必ず迎えに来る。
自分の力を見せ付けて、我以上の王はいないと信じさせて、ユメを安心して迎えられるようなそんな国にしてみせる、と。
私へ向けられたはずの言葉は、まるで自分へ言い聞かせるかのようだった。
ついていきたいと言うのは簡単だったけれど。言えば彼は頷いてくれたのかもしれないけれど。私たちはお互いとても揺れていたから。触れ合える距離でもっと一緒にいたいと思っていたから。
けれど、離れるのが最善だと。
どうしようもなくわかっていた。
一月後の別れまで、私たちは今までと変わらず過ごした。
普段と同じように授業を受け、友達と笑い、一緒に食事をして、手をつなぎ眠った。
彼は溶けるほどの甘い言葉を口にして、私を恥ずかしがらせて喜んだ。
いつもどおりの朝に、いつもどおりの顔をして別れた。
彼が転送陣の光の向こうに消えた後、思い切り泣いてしまったけれど、彼にはきちんと笑顔を向けられたはず。
頑張ろうと、一言も口にはしなかったけれど。一緒になるためにはとても努力が必要だとお互いにわかっていた。
手始めに勉強を頑張ることにした。
シグルイは魔法大国。彼はもちろん、優秀な魔法使いがあちらこちらにいる場所だ。彼においつくことは難しくても、せめて彼が笑われないくらいにはなりたい。
図書館にこもる時間が増え、ゲルハルト先生に頼み込んで補修も受けた。
シグルイについても玉麗に話を聞いたり、文献を読んだりして、できるだけ多くの知識を得るよう努力した。
彼の愛してやまない国を、少しでも知りたいと思った。
髪を伸ばし始めた。
彼は気高くて、美しくて。『暁の王』なんて呼び名がぴたりとはまってしまう人。
髪を伸ばしたくらいで近づけるなんて思わないけど、それでも隣に並ぶために少しは変わりたい。
一月に一度。
王族の特権じゃ!などと言って、転送陣を使って彼は必ずアカデミーにやってくる。
あんまり綺麗にならんでよいぞ。置いておくのが心配じゃ、なんて相変わらず甘い台詞が、耳にこそばゆい。お世辞だなんてわかっていながら、それでも嬉しいのは私がどうしようもなく彼に惚れてしまっている証拠なんだろう。
彼の長い指が私の頬を辿るたび、私はなんだか泣きそうになる。
どうした?なんて優しい言葉が囁かれるたび、心臓がぎゅっと締め付けられて、私は黙って首を振るのが精一杯だ。
好きで、好きで、好きで。
あふれ出すこの想いを全て伝える言葉を私は持たなくて。
会うたびどんどん好きになる。会えない日々にだって、彼を想って切なくなる。
もう、引き返せないなぁなんてぽろりと零したら、引き返すつもりだったのか!?と拗ねた顔でけしからん!と怒鳴られる。ぷいっとそっぽを向いてみせる仕草が、今はもう思い出の中の幼い彼と重なって何だか懐かしい。
小さくて柔らかい掌に触れる時もドキドキしたけれど、大きくて硬い掌に触れる時は切なくて、苦しい。身の置き場がなくて、言葉の出し方がわからなくて、呼吸の仕方も忘れてしまいそうになる。
好きすぎて、どうしたらいいのかわからない。
そっと耳元で呟いたら、彼は大きく目を見開いて、そうして泣きそうな顔になった。
お主は、どうしてそんな…、と右手で顔を覆って俯いた。何だか痛みを堪えているような顔で。
何かいけないことを言っただろうかと慌てていると、がばりと抱きしめられて、余ばかりが好きだと思っていた、なんてありえないことを震える声で囁かれた。
そんなこと、あるわけがないのに。私のほうが好きだよ、きっと、と言うと、余はいつも愛しているとお主に言うのに、お主はちっとも言ってくれないではないか、とやっぱり抱きしめたままで言う。
だって、そういうのは口にするのは勇気がいるし恥ずかしい。それに殿下はどこでも誰の前でも言うから余計です、と文句を言うと、あれはわざとじゃ、なんて思わぬ言葉が返ってきた。お主が余のものだということをしっかりアピールしておかねば、どこの誰にとられてしまうかしれんから、なんて。私をとる人なんていないよ。殿下の方が心配だし、と口を尖らせると、お主は鈍いからと言われてますますムッとする。アキトのことがいい例じゃ、なんて言われると言い返す言葉を持たないのだけど。
抱きしめて、キスを交わして、セックスをして、手をつないで、頬に触れて、眠る時間さえ惜しみながら言葉を交わして。
短い逢瀬は終わる。
別れはいつも夜。
朝日が昇るその前に。
別れはいつも笑顔で。
お互いの、暗黙の了解。
この別れは一歩。
いつかふたりで夜明けを迎えるための、必要な布石。そう、信じてる。
だから、今はまだ。
私はひとりで夜明けを迎えましょう。
あなたの隣で、夜明けを迎えるその日まで。
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最初は玉麗か殿下視点で書こうと思っていたんですが、ヒロイン視点が少ないなぁと思い、急遽ユメ視点に。そのせいか、当初ラブラブバカップルを書こうと思っていたはずなのに、どこがどう間違ったのか、欝テイストな話に 。
いやいや、よく読むとふたりの会話はバカップルなんですが。甘いのがどうしてここまで書けないのか……。鬼門なのかもしれないなぁ。
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主人公至上主義でつっぱしります。
妄想癖はありますが、発想が貧困なのでリクエストいただければ嬉しいです。(リクエストや感想は拍手やコメントでお願いします)
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