2009
拍手にアキト独白も追加。ゲーム開始前の設定。
小説は続きからどうぞ
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「ユーリ!てめぇ、一体なんのマネだ!」
屋敷の使用人を振り切って怒鳴り込んできた男に対し、ユーリと呼ばれた屋敷の主人は悠然と振り返って笑顔を向けた。
「やぁ、アキト。久しぶり」
「久しぶり、じゃねぇよ!なんだ、あの見合い写真の山はっ!」
そう言うと同時に、目の前の机にドンと置かれたのはその見合い写真の、まさしく山。
わざわざ律儀にも持ってきたらしい。
「だってアキト。君いい年なのに、今でも独り身なんだろう?ハナコさんも心配してたから、義理の兄でもある僕がこうして厳選した相手を見繕ってあげたのに」
「余計なお世話だっ!」
ドン、と拳が机の上に振り下ろされ、写真の山が崩れる。ばらばらと散らばった写真には目もくれず、アキトの視線はまっすぐユーリに向けられている。
あ~あ、とわざとらしく溜息をつきながら、散らばった写真を拾い集める。
「ほら、彼女なんかいいんじゃない?美人だし、魔法の造詣も深い。一度僕も顔を合わせたことがあるけれど、性格も大人しくて男を立てるタイプだったよ」
「興味ねぇよ」
にっこりと笑う貴婦人の写真を広げて見せるが、にべもなく断られる。
まぁ、その反応は正直予想の範囲だったのだけど。ここで少しでも興味を惹かれるような相手であれば、ユーリだってこんな策を弄したりはしなかった。
「ユメも気にしていたよ」
「……関係ねぇだろ」
本当は口にしたくはなかったんだけど、と思いながら彼の最愛の姉であり、今は自分の妻の名前を口にすると、アキトの肩が小さく震えた。
あぁ、やっぱり。心の奥が淀む感触に、気付かれない程度にユーリは眉を顰めた。
まだ、アキトは。
【僕は世界に懇願する】
「まぁ、僕も無理して薦める事はしないけどさ。今日は泊まって行けるんだろ、アキト」
「あ、いや。まぁ、予定はねぇけど」
「じゃあ、そうしてよ。ユメも喜ぶし。アキトなかなか連絡つかないんだもん。部屋用意するからさ、とりあえずお風呂にでもはいってゆっくりしてきてよ」
ベルを鳴らすと、すぐにメイドが顔を出す。部屋と着替えの用意を言いつけ、アキトが退室するのを笑顔で見送った後、秘書を呼ぶために受話器を上げた。
「何か御用でしょうか」
「これ、もう用済みだから」
顎で軽く示すと、察しのいい男は黙って写真の山を引き上げ扉の向こうへと姿を消した。
目をつぶり、目頭をぎゅっと押す。気持ちを落ち着けたいときの癖だ、というのはユメに指摘されて初めて気付いた。
失敗して当然の賭けだった。どれほど時が経とうとも、アキトの気持ちが動いていないのを再確認させられただけだった。
「本当、嫌になるね」
零れ出た言葉が、自分に向けられているのか、アキトに向けられているのかは判断できない。
黄金竜を呼んだ後、アキトとユメとユーリはアカデミーを無事卒業した。ユーリはセブンスター入りを果たし、リンドベルイ家を正式に継いだ。そしてそれと同時にユメにプロポーズをした。
周りもユメ自身も早いのではないかと言ったが、ユーリにもう待つという選択肢は存在していなかった。
アカデミー在学中に結婚するのだけは耐えたのだ。これ以上は待てない。焦りがあった。
早く、早くユメを自分のものと知らしめたい。確信が欲しい。そればかり考えていた。
情けない、と自分でも思うほどにユーリはユメに嵌っていた。けれど、焦りに拍車をかけたのは、間違いなくアキトの存在だ。
アキトはユメに対してきちんと姉として接していた。ユメがそう望んだとおりに。
多少シスコン気味であることは否めないが、それでもそれ以上の線を越えることはなかった。
だけど、それでも、ユーリはいつでも怯えていた。アキトが今でもユメが好きだというのを知っていたというのはもちろんある。けれどそれ以上にアキトの存在を脅威に感じていたのは、あの時の台詞のせいだ。
―俺は、ユメのいない世界なんかいらない―
きっぱり言い切ったアキト。
彼にだって大切なものはあったはずだ。それでも、振り返らなかった。
子供だ、と言い切ってしまうのは容易い。
大事なものをただひとつ選び取る力が彼にはあった。
ユーリにはなかったその力が。
今が恵まれていたから。
綺麗な服も。
美味しい食事も。
やわらかなベッドも。
あたたかい友情も。
知識を得られる場所も。
失うのはあっという間でも、手にすることが難しいことを、ユーリは嫌というほど知っていた。
だから手放せない。勝てない勝負はしたくなかった。だって、世界が敵なのだ。魔法使いなら誰でも分かる。セブンスターが敵にまわるということ、あの人が敵であるということは、世界全てが敵なのに。
どうして、とアキトの背に呟いた。
どうして君はそんなに強いんだ。
ユメは君を選ばなかったのに。
それでも、好きだと。世界を敵にできるほど好きだと。
泣き叫びたいと、初めてユーリは思った。
勝てない、と心の底から思った。だけど、手放せなくて。ユメの手がこちらに伸ばされていたから、柔らかい身体を抱きしめていたくて。
ユメを好きだけれど。誰よりも愛していると思うけれど。
アキトには勝てないという劣等感が、いつもユーリの心にはある。ユメがアキトの手をとって、ユーリの傍から去ってしまう悪夢をみて、何度夜中に目を覚ましただろう。
きっと一生この気持ちは消えない。
ユメを手放せるわけはないし、アキトとも友人でいたいと思う。
わがままで臆病で、ずるい自分への罰なのだ。
運命だと。
そう確信できるような愚か者であればよかった。
そう認められるような奇跡的な恋愛なら何かが違っただろうか。
だけど、ユメとユーリが結ばれたのは、お互いの努力と偶然が積み重なった結果だと、だれより知っているから。
何かが違えば、ここに立っているのは別の人間だったかもしれないという思いがあるから。
ごめん、アキト。
君を大事な友人だと思うけれど、心にある劣等感と嫉妬は一生消せない。
だけど、向かい合う努力を一生続けるから。
ごめん、ユメ。
君をとても愛しているけれど、心から信じることはできない。
だけど、誰よりも大事に。今度は世界よりも君をとるから。
だから、この幸せな世界よ。
どうか、僕を見捨てないで。
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アキトとユーリって対照的だと思うんですよね。
お互いに劣等感というか、羨ましいと思うところがあるんじゃないかと。
ユメがつかまった辺りのアキトの行動力に対して、ユーリなりに思うところもあると思うし、アキトが他の女の子に惚れるところがいまいち想像できず。
「ユメのいない世界なんて~」というのはユーリルートで言ったんじゃない気がしますが、小説の都合上ちょっとこっちで言わせてみました。
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主人公至上主義でつっぱしります。
妄想癖はありますが、発想が貧困なのでリクエストいただければ嬉しいです。(リクエストや感想は拍手やコメントでお願いします)
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