2008
黒の章が少し進んだくらいをイメージなので、アキがいるのはヤスナの鍛冶屋です。
完全一方通行で救いがない話なので、そういうものが苦手な方にはお勧めできません。
それでもよいという方は、続きからどうぞ。
「馬鹿じゃないのか」
吐き出すように言った台詞に、返って来たのは淡い笑みだけだった。
一瞬だけこちらを振り返った瞳は、再び熱い鉄の塊へ向かう。
規則的に振り下ろされる腕。
小さく揺れる、束ねられた茶色い髪。
覗く首筋から流れる汗。
何一つ見逃すことのないように、じっとアクトはアキを見つめる。その薄紫の瞳に映る熱がどの感情から来ているのか、アクトは最近になって自覚した。
がぁん、と鉄と石がぶつかる音がそれほど広くはない部屋に絶え間なく響いていく。赤い炎に照らされた背中をじっとりと睨むように見つめながら、アクトは先ほどと同じ言葉を繰り返す。
「アクトさんはあたしにどうしろって言うんですか」
振り返らない背中が、力強く鉄を打つ手はそのままに、淡々と問い返す。
「見込みもないのに、告白でもしろって言うんですか」
がぁん、と響く、音。
「それとも、カヤナにあの人が好きだからとらないでとでも縋れとか?」
違う。
口の中でだけ呟いて、そのまま飲み込む。
何一つそんなことは望んでいない。
アキがあの男を好きだというのを認めるのさえ、嫉妬で気が狂いそうなのに、わざわざ好意を口に出してやる必要なんか全くないと思っている。しかも相手は別の相手を想っているのに。
とはいえ、アクトの目から見るとあいつ―、クラトはカヤナにはっきりとした恋愛感情を抱いているとは言いがたかった。どちらかと言えば、心配で目が追うという感じ。アキにだって、クラトは同じような感情を持っているのだろう。
だからこそ腹立たしいし、万が一にも告白なんかされては困るのだ。今はカヤナのほうに向いている目が、告白でアキに向いて両想いにでもなったらどうする。
自分で考えて寒気のような、沸騰するような感触が背筋を通り抜けた。
「俺は」
息を、吸う。
部屋に充満した熱気が喉を焼く。
「俺は、お前が息を潜めるみたいに自分を殺してるのが嫌なだけだ」
出合ったときにあった自然な笑みは、どんどん影を潜め、ゆるやかな笑みを浮かべるその姿を綺麗だと表現するものもいたけれど、アクトからすれば花がしおれているようだった。
「苦しいならやめちまえ」
アキの手が止まる。
その腕を掴んで、振り向かせる。少しだけよろけた体を、アクトが支えた。
見上げた瞳には、戸惑いと苦味が浮かんで揺れている。
「やめちまえ」
願いをこめた台詞は、まるで懇願のようだった。
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頭に浮かんだイメージだけで書き上げた話。
誰も救われない、一方通行の連鎖。
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主人公至上主義でつっぱしります。
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