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完全自己満足のページ

2024

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2009

0810
ユーリ×ユメED後のアキト+シャルロッテ。
アキトとシャルロッテはくっついてません。アキト→ユメ、シャルロッテ→ユーリテイストです。
淡々とした静かな話を目指して書いてみました。
決してラブラブでも明るい話でもありませんが(今更)、それでもよろしければ続きからどうぞ。



 

遠い残響が胸をつく。
あぁ、もうとうに過ぎ去ったものだとわかっているのに。

 

【Discontinuing breath summer】

 


シャルロッテはさっきから一言も喋らず、黙々と麓への道を進んでいる。
シルバースターアカデミーの教会で挙げられた結婚式での帰り道。すでに夕方へ近い時間ではあるけれど、周囲はまだ明るく、地面からは昼に溜め込んだ熱がじりじりとせりあがってきて、アキトは額を伝う汗を手の甲で拭った。
黒い礼服は夏の外歩きには不向きな服装だったが、なんとなくそれを崩すのは憚られた。アキトの半歩後ろを歩くシャルロッテが、高いヒールであろうと長い距離を背筋を伸ばし真っ直ぐ歩いているせいかもしれない。
ちらりと後ろを見るが、シャルロッテとの視線は合わない。彼女は平坦な表情でまっすぐ前を見つめているだけだ。

情けねぇな。

気付かれないように溜息を口の中で飲み下す。
シルバースターアカデミーを卒業し、数年。世界を回っていた自分に届けられた、一通の封書。
リンドベルイ家の刻印が刻まれたそれに書かれていた、甘やかな幸せの知らせ。それを目にしたときの胸が引き絞られるような感覚が、アキトを今も締め付ける。いつかは訪れるものだと覚悟をしていたはずなのに、あっさりとそれは覆された。

アキトはきつく目を閉じる。
久しぶりに会った友人と姉の結婚式。
白いドレスに身を包んだ姉は、惚れた欲目抜きに美しかった。いつまでも幼い少女のままだと思っていた彼女は、いつのまにか大人の女になり、幸せをその唇に讃えていた。
『おめでとう』と言った自分は、きっとうまく笑えていたのだろう。
式の間は決して流さなかった涙を、姉はボロボロと零し、とても嬉しそうに笑ったのだから。
今よりずっと子供だった頃。自分の中で抑え切れなくなった欲を、彼女にぶつけてしまったその罪を、アキトは今でも忘れていない。彼女もユーリも、決して忘れてはいないだろう。けれど、許している。ユーリは心の裡を読ませない男であるから、本当のところは判断しにくいが、少なくとも姉はアキトのことを許しているのだろう。
そして、まだ愛してくれている。

弟として。

昔はそれが辛かった。
自分が欲しい感情ではなかったから、苦しくて辛くて、欲しいものを手に入れたくてその苦しみを八つ当たりのように姉にぶつけたのだ。
今はそれがどれほど貴重なものなのかを理解している。
だから、壊せない。
息をひそめるように想いを殺しているのは、それすら失ってしまったら、アキトの手には何も残らないからだ。


シャルロッテのヒールの音が耳に響く。
乱れず、毅然としたその音の持ち主に相応しく、時折ボロが出そうになる自分と違い、式の間中シャルロッテはユメとユーリの友人という立場を決して崩しはしなかった。アキトの目から見ても、シャルロッテは本心からふたりの結婚を祝福しているように見えた。敏いユーリにすら、きっとそう見えただろう。
けれど、アキトだけは知っていた。わかってしまっていた。
報われないこの恋を想うたび、アキトは姉を想い、ユーリを想い、そしてシャルロッテを想った。
姉へ向ける膨大な熱量とも違い、ユーリへ向ける憧れと妬みが入り混じった感情とも違う想いで彼女を想った。


「アキト」

シャルロッテの声に、アキトは立ち止まり振り返る。
翡翠の凛とした瞳が、アキトを真っ直ぐ見据えていた。

「私、今度結婚しますの」

ざあっ、と風が通り抜ける。
夏の風は熱気をはらみ、生暖かい温度で肌を舐めた。

「祝福してくださいます?」

美しい笑みだと思った。完璧で隙のない笑み。
屈託なく、顔中で喜びを表現するアキトの中の永遠の少女とは違うその微笑を、それでもアキトは美しいと思った。

『君達はよく似ているから』

昔、ユーリに言われた台詞を思い出す。
シャルロッテに向ける感情は、どこか仲間意識というのが一番近かったと思う。

けれど、それを今心底恥じた。
自分達は少しも似ていない。
いまだにうろたえ続ける自分と違って、これほどまでにシャルロッテは強く美しい。
すうっと息を吸うと、生暖かい空気が肺を満たす。
これから紡ぐ声が、世界で一番暖かく優しい音に聞こえるよう、アキトは祈る。

「もちろん。お前は幸せになるよ」

きっと、誰よりも。

アキトよりも、ユメとユーリよりも。
どうか、誰よりも幸せであれと、アキトは祈った。

「アキト、あなたも」

シャルロッテの静かな声に答えることなく、アキトは沈んでゆく夕日を見つめた。

静かに。
しずかに。

夏が、終わる。


どこまでも、孤独だった。

 

=====================
報われない恋を抱えながらも、前へ進むシャルと、立ち止まったままのアキト。
ユーリルートでのシャルとアキトは、奇妙な連帯感というか、不思議な繋がりがありそうだなぁと。恋愛でも友情でもないけれど、ふたりだけの。
ユーリよりもアキトの方が好きなのに、話が浮かぶのはユーリルートかユーリの話が多い…。何故だ。

漢字が好きなので、日本語でタイトルをつけていたんですが、今回はあえて英語。
日本語訳は【息絶える夏】
 


 

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