2009
蛋白石の話と繋がっていますが、設定が同じというだけで、ばらばらでも読めます。
小説は続きからどうぞ
あなたを想って書く手紙はもう何枚目になるでしょう。
書き出しはいつも同じ。
『あなたはどうしていますか。私は今もあなたを想っています』
【 深窓育ちの無礼講】
出会ったのはもう8年も前。
低く響く声と、こちらを鋭く見つめる視線に、私は少し緊張したのを覚えています。そう、敬礼の正しいやり方を指導してもらったのも、このときが初めてでしたね。
あなたと会うたび、敬礼の型が間違っていないか、私はひやひやしたものです。
厳しい人だと思っていたあなたが、実はとても優しくて、暖かいひとだと気付いたのはいつだったのでしょう。
初恋のあなたが、いつの間にか優しいおじさんではなく、男の人になったのはいつだったのでしょう。
初めて笑顔を見たとき?
優しく触れてくれた時?
私を守ってくれた時?
いつの間にか好きになっていたのです。
息をするように自然に、あなたを想っていたのです。
そう言うと、カレンはいつも『のろけないでよ』なんて冷やかします。カレンとは随分前に部署が別れてしまったけれど、時々顔を出しに来てくれます。あの後もずっと軍に所属して、今では階級も随分上がったんですよ。コリンと一緒にしょっちゅうあなたに注意をされていたあの頃には想像もできないでしょうが、今では逆に部下に注意する立場です。
カレンとおしゃべりをしていると、アリサの話もよく出ます。
アリサは今では2児の母。アリサの看護婦姿に惚れてしまった軍人さんが熱烈アプローチをして、4年前に結婚したんです。おっとりした口調とは裏腹に、すっかりお母さんの顔になっています。
8年の間に、小隊のメンバーは色々なところに散らばってしまいましたが、オズウェルと親方だけは今でも一緒に働いています。オズウェルはますます腕を上げていて、しょっちゅう昇進と異動の話が出るのに『俺は現場で仕事をするのがあっている』と来る話を端からすべて断ってしまっています。私もその気持ちはわかるので、いつもしょうがないなぁと笑ってしまうのですけれど。彼もいまだ独身で、周りの人たちからは『あの人は飛行機と結婚したんだな』なんて言われる始末で、それに頭を痛めているのは親方さん。『もう俺は引退の身だ』なんて言いながら、ちょくちょくドックに顔を出しては、私やオズウェルのことを心配してくださいます。『俺は死ぬ前にオマエとオズウェルの子供が抱きてぇんだよ』なんて言われた時は、思わず困ってしまったものですけれど。
もうすぐあなたが逝ってしまったあの日がまた巡ってきます。
空を見上げる私に皆が言うのです。
もう忘れていいよ、と。
自由になっていいんだよ、と。
それは紛れもない優しさなのでしょう。
私があなたのことを話すたび、愛おしいのだと口にするたび、皆が辛くてたまらないというような顔をするのです。
私があなたに縛られているように見えるのでしょうか。
そうであれば、どれだけよいか。
思い出に縛られて、身動きできないほどあなたで一杯であれば、どんなにか私は幸せでしょう。
ひとつひとつ噛み締めるように思い出すそれが、いつか色あせていきそうなのが怖いのです。
あなたを愛しているというのは、何一つ変わりはないのに、あなたの温度や笑顔が少しずつ思い出せなくなるのがとても怖いのです。
そんなときはいつも空を見ます。
あなたが愛した空を。
あなたが昇っていったであろう空を。
そして、あなたが遺してくれた言葉を思い出します。
あなたが私を愛していると伝えてくれたこと。
今でもその言葉をなぞると、心が震えます。
喜びがこの身体を支配して、自然と涙が浮かびます。
あぁ、私はまだこんなにも、あなたを好きで、好きで。
だから、どうか許してください。
忘れていいというのは、あなたの、周りの人の優しさなのだとわかっているけど。
手を振れるほど大人になれない私を。
いつまでも後姿を追いかけている私を。
どうか、私がその空を昇るまで。
==================
あなたを忘れたくないのは、私のわがままなのです。
前回書いた話と対の話です。
エリカは忘れられないのではなく、忘れたくないんだと思います。少佐といたのはとてもとても短い時間で、思い出も少ないから、彼の姓を名乗ることや彼が最後に与えてくれた手紙は彼女の最後のよすがではないかと。オズウェルはそれが分かっているからこそ踏み出せない。
・・・あたしの書くオズウェルはいつまでたっても不憫・・・。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
主人公至上主義でつっぱしります。
妄想癖はありますが、発想が貧困なのでリクエストいただければ嬉しいです。(リクエストや感想は拍手やコメントでお願いします)
乙女ゲームを扱うサイト様に限りリンクフリー。報告は必要ありませんが、教えていただければ喜んでお邪魔させていただきたいと思います。